2005年

ーーー10/4ーーー 大工の若者たち

 
地元の工務店とタイアップして、新築家屋にムクの木工家具を入れる活動をしていることは、以前このコーナーで紹介した。早くもその第一号が成約し、近々建物は竣工、家具は納品という運びになった。このプロジェクトを実現してくれた工務店の社長に、お礼を込めて一杯おもてなししたいと申し入れた。社長は、社員も含めた懇親会を、会費制でやりたいと返してきた。

 小料理屋の一室で宴が持たれた。始めのうちは、私ともう一人の木工家が、社長と差し向いで酒を注ぎあい、若手は隣で固まって別の話題に興じていた。

 社長と呼ぶのが適切かどうか分らない。棟梁と呼ぶのが相応しいかもしれない。とにかくまだ三十台半ばの年令で、若手を六人使ってバリバリ仕事をしている切れ者である。若手はいずれも二十台前半か。いかにも現代っ子らしく、作業服でもちょっとオシャレで格好良い。

 聞くともなしに若者たちの話題が耳に入る。それがちょっと驚く内容であった。ほとんど仕事の話題ばかりなのである。あの現場の仕事はどうだったとか、あそこの納まりはあれで良かったのかとか、大工仕事の詳細に渡って、熱心に語り合っているのである。

 neetとか言って、仕事にも勉強にも、ひいては人生そのものにさえ意欲を無くした若者が、世の中に増えている。それと比べてこの若者たちの熱気はどうだろう。

 私の過去を振り返ってみた。同じ年令の頃、会社員をしていたのだが、会社の同僚と酒を飲むときに、仕事の話に花が咲くということは、ほとんど全く無かった。むしろ仕事の話は避けられたくらいであった。いちおう一流会社のレッテルが付いていた会社の実態がそうであった。

 仕事の質が違うし、組織の性格も違うのだから、単純に比べることは意味が無いだろう。しかし、仕事はつまらなく嫌なものだが、生活費を稼ぐためには仕方なくやる、という気持ちで勤めている者。酒宴をその憂さ晴らしに使う者と、酒の席でもなお仕事の話に熱中する者とでは、同年代の若者として、どちらが生き生きとし、また幸せであろうか。

 宴もたけなわになり、酒がおじさん木工家の口をなめらかにする。若者たちに声をかけ、「大工仕事のどこが楽しいと思うか」とたずねた。各人それぞれ答えは違っていて面白かった。ある若者は「木は同じに見えても全て違う。その違いを見抜いて、うまく生かして家を作る。そんな工夫が毎回新鮮で面白い」と言った。同じ木を扱う者として、はっとさせられるような言葉であった。



ーーー10/11ーーー 銀婚式
 
 今年も10月4日が来た。我が家の結婚記念日である。今年は25回目。いわゆる銀婚式である。

 25年、長くもあったような、短くもあったような。

 結婚の翌年に生まれた長女は、今年24歳になった。私が会社員時代、インドネシアに出張している最中に生まれた長男は21歳になった。脱サラして木工家を目指し、技術専門校に在学中に生まれた次女も、高校一年生となった。

 家内は既に、結婚してからの人生の方が長くなった。私もあと2年経てばそうなる。人生の折り返し地点とも言えようか。

 色々な事があったのは、言うまでもない。それでも大禍なくこの25年間を送ることができたのは、家内の理解と協力に負うところが大である。感謝の意を表したい。好き勝手なことしかやらない夫を、よくもここまで支えてくれた。

 この25年間、住む場所も変わった。付き合う人も広がった。いい歳になってから、様々な人との様々な出会いがあった。いまだに飽きることのない毎日を過ごさせてもらっている幸せを、有り難いと思う。

 4日の夕食は、私と次女の好物である「ちゃんこ鍋」を家内に頼んだ。そうして家族三人で、ささやかな銀婚式の夕べを過ごした。



ーーー10/18ーーー 展示会に向けて

 別項でご案内しているとおり、19日から東京で展示会を行なう。17日はその荷物を運送会社のトラックに積み込んだ。テーブルや椅子、その他の家具が合わせて20点ほど。その他、ガラスなど別のジャンルの作品のための展示台に使う大きな板が三枚。これらは、あわよくばテーブルの素材として注文を取りたいという含みもある。それから木工の実演パフォーマンスに使う仮設作業台と工具。接客に追われて実演をやる余裕が無くても、ディスプレイとして工房の雰囲気を多少なりとも演出できればと思う。

 18日は早朝穂高を出て会場に向かう。午後2時から搬入を始め、9時頃までにはセッティングを終えなければならない。心身ともにたいへんな疲労をもたらす作業だが、期待に胸を膨らませてせっせと準備をするのは、なかなか楽しいものでもある。

 今回の展示会は、7月に話が持ち上がり、大急ぎで進めてきたものなので、時間的な余裕が無かった。そのため、新作はほとんど無い。その代わり、在庫の作品を全て持って行くことにした。会場が広いので、品数をそろえなければならないのである。結果として、私のこれまでの仕事の集大成のような品揃えとなった。

 以前は、展示会を開くことにいささかの戸惑いがあった。不馴れからたいそう重荷に感じたし、また、作品に対する自信というようなものも、まだ醸成されていなかった。ご来場の御客様に対する接遇も、悩みの種であった。オドオド、ビクビクだったのである。

 こういうことも経験を積むと次第に板についてくるようである。先輩諸氏から見れば、まだまだの点も多いかも知れないが、ともかく自分自身として楽しめるようになったのは進歩であろう。自分の作品を人目にさらし、いささかの褒め言葉や共感の辞をいただくことは、作家冥利に尽きる。その楽しさを感じられるようになったのも、戸惑いながらも重ねて来た展示会の経験と、そもそも15年間続けて来た木工仕事の積み重ねによるものだろう。

 早くも会場を訪れたいという連絡が数件舞い込んでいる。旧知の方と御会いするのも、また初めての御客様と出会うのも、大いに楽しみだ。

(注) 来週25日のマルタケは、展示会で不在のため休載とします。




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